名古屋高等裁判所 昭和40年(行コ)8号 判決 1967年10月09日
名古屋市東区主税町三ノ一一
控訴人
名古屋東税務署長
志津一郎
右指定代理人
名古屋法務局訟務部
部付検事
松崎康夫
法務事務官
服部勝
右訴訟代理人弁護士
入谷規一
右指定代理人
名古屋国税局
大蔵事務官
塚原和男
右同
川村俊一
右同
越知崇好
右同
竹内雄也
愛知県西春日井郡師勝町大字井瀬木一一一三番地
被控訴人
錦観光自動車株式会社破産管財人
早川登
大垣市郭町三丁目九八番地
被控訴補助参加人
株式会社大垣共立銀行
右代表者代表取締役
寺田畊三
右訴訟代理人弁護士
島田新平
右訴訟復代理人弁護士
島田芙樹
右当事者間の昭和四〇年(行コ)第八号法人税更正決定取消控訴事件について当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とするとの判決を求め被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述及証拠の提出認否は左記のほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。(原判決事実摘示昭和三三年八月三一日破産宣告とあるは昭和三二年八月三一日破産宣告の誤記)
控訴代理人の陳述
第一
一、本件訴訟の争点は、参加人大垣共立銀行と訴外錦観光自動車株式会社(以下訴外会社という)との間に本件遅延損害金についての特約が交されていたか否かにある。
原判決は、本件損害金の基本債務である手形取引基本契約は当初参加人銀行から訴外会社の設立発起人であつた訴外中山錦二に、同人が同人の支配する中山木材株式会社(以下訴外中山木材という)名義で訴外中部日野ヂーゼル株式会社(以下訴外中部日野という)から買い入れた観光バス代金相当額を融資する予定であつたところ、日本銀行の同意を得られなかつたために参加人銀行、訴外中部日野、訴外中山錦二、三名協議のうえ、訴外中部日野に一旦融資し、訴外中部日野はこれを訴外中山木材に貸付けて右代金に充当した経緯からみて、訴外中部日野は単に形式上の債務者に過ぎないとして右基本債務は訴外中山錦二(訴外中山木材)が負担し、その後訴外会社が成立するに及んで同社が右基本債務を引き受けたものと認定し、原告管財人が日歩二〇銭の割合で計上した訴外会社の参加人銀行に対する未払利息を正当と認め、日歩二銭五厘の限度でしか認容しなかつた原処分を違法として取消したのである。
二、原審において被控訴人及参加人は本件基本契約締結当時未成立であつた訴外会社が参加人銀行に対して何故に返金義務を負わねばならないか、その法律上の根拠は遂に明らかにされなかつたものであるところ、原判決は前述の如き本件融資の経緯から訴外中山錦二(訴外中山木材)が本件基本債務を負担するに至つたとして、その後訴外会社の設立後訴外中山木材振出の約束手形を訴外会社名義に書き換えたことにより、訴外会社が右基本債務を引き受けたと認定したのであるが、右は事実の認定及び法律の解釈を誤つたものといわざるを得ない。けだし、
1 本件手形取引基本約定書(乙第一九号証)によれば一見して明らかなように、外形上訴外中部日野が主債務者であること、即ち右約定書によれば「借主」中部日野ヂーゼル株式会社、「連帯保証人」川村要作(訴外中部日野取締役社長)、中山錦二と明記されているのである。
2 参加人銀行備付の帳簿においても、本件取り引きはすべて借主中部日野として記録整理されていること。
3 参加人銀行は、右基本契約に基づき訴外中部日野を被告として約束手形金請求訴訟(昭和三一年(ワ)第二〇三号)を提起していること。
4 訴外中部日野は、本件融資によつて訴外中山木材に売り渡したバス車輛にはすべて債権者として低当権を設定していること。
5 訴外中部日野は、訴外中山錦二が参加人銀行から融資を受けられなくなることによつて、必然的にバス売却代金の回収が困難となる等経済的損失を受ける立場にあり、本件手形貸付は同社に経済的にプラスするものであつたこと。
等からして形式的にも実質的にも本件基本契約の主債務者は、訴外中部日野であることは明らかであるからである。
第二、被控訴人及被控訴補助参加人の陳述第二は認める。
第三
一、本件遅延損害金債務を訴外会社が負担すべき根拠は全くない。
本件手形貸付基本契約(以下本件基本契約という)の主債務者は、訴外中部日野であつて訴外中山錦二は連帯保証人に過ぎないものであることは、すでに主張立証ずみであるが、かりに百歩譲つて、本件基本契約の主債務者が、原判決の認定するように訴外中山錦二であるとしても、同基本契約締結当時未成立であつた訴外会社がその債務を負担するいわれのないことは、次の諸点から明白であると思う。
(一) 「訴外中山錦二の本件基本契約の締結による債務負担行為はいわゆる開業準備行為であつて、右債務を訴外会社に承継させるには商法一六八条の手続を経由しなければならないのに何等の手続も履践されていない」
訴外中山錦二は、訴外会社設立中、設立後の訴外会社のため、本件基本契約によつて融資を受け、この資金によつてバス車輛を購入し、そして訴外会社設立と同時に、訴外会社は右中山から右基本契約に基づく債務及び右バス車輛とを一括して、譲受(引受)けたとして処理している。このことは訴外会社備付の財務諸表のうえにおいても明らかにされている。
そうだとすれば、訴外中山錦二のした本件基本契約の締結による債務の負担及びバス車輛の購入がいわゆる開業準備行為にあたることは明白であるというべきである。
そして右のように本件基本契約にもとづく債務負担行為及びバス車輛の取得は、開業準備行為としてなされたものであるから、訴外中山錦二が取得(負担)したバス車輛及び本件基本契約に基づく債務を、設立後の会社に移転せしめる意思のあつたことは容易に窺いうるところであるし、したがつてこれらの取引後訴外人個人と発起人全部(組合)との間に、その旨の合意(これもまた開業準備行為の一つである)があつたと認むべきことも当然のことに属しよう。
現に前記のように訴外会社の財務諸表のうえでは、この当然の帰結が当然のこととして記載されているのである。
これが商法一六八条所定の財産引受にあたることはいうまでもない。
而して財産引受は、これを定款に記載し、裁判所によつて選任された検査役の検査を経たうえ創立総会の承認を経なければならない。しかるに本件基本契約に基づく債務負担に関しそのような手続が履践されたことについては被控訴人等の原審以来主張しないところであるし、またそのような事実の存在を認むべき証拠もない。
(二) 「本件基本契約に基づく債務の承継に関し商法二四六条の手続も経由されていないし、さらに会社成立後二年以降のどの時点においても訴外会社が本件債務を負担すべき特別の移転行為をした事実もない」
(イ) 右のような開業準備行為によつて発起人もしくは発起人組合が取得した財産を、設立後の会社が譲り受けることを定款でもつて設立当初から定めておかなかつた場合、或いは財産引受が無効な場合、これを成立後の会社に帰属させるためには譲渡・債務引受等の特別の移転行為によらなければならないが右財産のうち営業用固定資産については会社の成立後二年内に資本金二十分の一以上の対価で会社に取得させるためには株主総会の特別決議を経なければならない(商法二四六条)。
前項で述べたごとく訴外会社は設立と同時に訴外中山錦二からバス車輛と本件基本契約に基づく債務(各三四〇〇万円で訴外会社資本金二〇〇〇万円を上廻つている)を一括して譲受(引受)けたとして処理しているが、右バス車輛の譲受と右債務の引受は対価関係にたつので、これを設立後の二年内である昭和三一年四月末日迄に訴外会社に有効に帰属させるためには株主総会の特別決議を経なければならないのである。
しかるに本件基本契約に基づく債務負担に関し右の手続が履践されたことについては被控訴人等の原審以来主張しないところであるし、またそのような事実の存在を認むべき証拠もない。
(ロ) 訴外会社成立後二年経過した昭和三一年五月一日以降は本件基本契約に基づく債務負担に関し特別の移転行為のなされる余地は全く存しない。
けだし、成立後二年も経過しない同三一年二月一二日付で参加人銀行は同行と「戦時状態」に陥つた訴外中山錦二及び訴外会社を相手として本件基本契約に基づく約束手形金請求訴訟を提起し、これに対し訴外会社及び同中山両名は右基本契約の存在そのものを否認して極力抗争していたものであるから、訴外中山錦二の本件基本契約に基づく債務を訴外会社が引受ける等ということはおよそ考えられないところである。
この点について、原判決は本件基本契約に基づく基本債務を訴外会社が負担すべき理由として、本件融資の経緯から訴外中山錦二(訴外中山木材)が本件基本債務を負担するに至つたとして、「訴外会社の設立後は、訴外中山木材振出の右約束手形を訴外会社名義で書替えているのであるから、この点から考えれば、訴外会社は参加人銀行に対して訴外中山錦二(訴外中山木材)の右基本債務を引受けたものと認めるのが相当である」と判示している。
この認定はいささか大胆にすぎるきらいがあると思われる。けだし、いわゆる手形の書替え(本件の場合はその実は振出)が種々雑多の意味で行なわれている実状を無視して、手形「書替」の一事から単純に債務引受と推認しているのであるが、これは単なる想像に過ぎない。債務引受を認定するとしても、以上の点に対する吟味が行われた後でなければ、そのような認定はなし得ないはずである。なおまた、その書替手形の額面金額は元本債務額についてのみであるが、元本金額についての手形の振出という行為から、遅延損害金についてまで債務引受を認めるのも大胆と言えば大胆にすぎよう。
要するに、この点の原判決の認定は法律上、事実上吟味を要すべき幾多の問題点を捨象した勇敢な認定だといわざるを得ず、到底控訴人の納得し能わざるものである。
二、本件遅延損害金の特約の存在を疑うべき事実がある。
本件基本契約の約定書(甲第一〇号証)に遅延損害金として被控訴人等主張の日歩二〇銭の記入があるが、左の諸点から右特約の存在について控訴人は深い疑惑の念を禁じざるを得ない。
(一) 「本件遅延損害金について参加人銀行が訴外会社に対して本件基本契約に基づき別件約束手形金請求訴訟(昭和三一年(ワ)第二〇三号)を提起するまでは、約定利息相当額(日歩二銭五厘若しくは日歩二銭六厘)で決済されていたものである。」
本件課税処分に当つて原処分庁が本件遅延損害金を日歩二銭五厘の限度で認容したのは、調査の結果被控訴人等も自認するとおり、銭加人銀行と訴外会社との間において本件遅延損害金を同銀行と訴外中山錦二との紛争、被控訴人の表現を借りれば「戦時状態」に立ち至る迄の間すなわち昭和二九年五月二九日以降同三〇年七月八日迄日歩二銭六厘、同日以降日歩二銭五厘の割合で支払決済されていたからに外ならない。
被控訴人等は「銀行業務は高利貸とは異なるから、その取引先と平常取引継続中は約定利率の最高限度の遅延(違約)損害金を徴収することは殆どなく、多くは約定利子相当額の損害金の徴収をし、妥結することを常例とし本件においてもその例外的取扱をしていない」と主張するが、本件基本契約は被控訴人等のいう平常取引中に締結されており、それ迄訴外中山錦二は本件以外に同人は勿論、その主宰する訴外中山木材等について参加人銀行から多額の融資を受け、その遅延損害金については約定利率相当額しか負担していなかつたのであるから、本件基本契約締結にあたつては、当然叙上の事実を前提として締結したものと推認され、日歩二〇銭もの高利率の遅延損害金の特約を認識して契約したものとは到底考えられない。
なるほど日歩二〇銭という遅延損害金は、当時の利息制限法に違反するものではないとしても(因みに本件契約締結直後の昭和二九年六月一五日施行された新利息制限法によれば本件では年三割(日歩八銭二厘弱)が最高限度ということになる)、国民経済の適切なる発展に寄与し、信用制度の保持育成に任ずべき公共的金融機関たる銀行ともあろうものが約定利子の約八倍強、年利にして七割三分もの、まさに町の高利貸ともみまがうべき遅延損害金の約定を締結するとは控訴人の到底理解できないところである。
(二) 「被控訴人等の本件遅延損害金に関する決算上の処理、破産債権確定手続等は首尾一貫していない」
本件遅延損害金を日歩二〇銭として係争事業年度に計上したのは、訴外会社職務代行者であるが、同人は右について訴外会社が否認抗争していたのみか、参加人銀行が前記手形金請求訴訟において、昭和三一年二月二二日からの分についてのみ日歩二〇銭として請求していたにすぎないのに、これを同年一月一日から計上決算をなし、さらに係争事業年度の翌期である昭和三二年度分決算において、訴外会社破産管財人は年六分の商事法定利率により本件遅延損害金を計上し、当該事業年度において係争事業年度分遅延損害金の内年六分を超える金額を雑収入として利益に戻し入れている。右各決算に参加人銀行が関与していることは、原審証人村田俊太郎の証言により明白である。
又、参加人銀行は、本件遅延損害金につき当初日歩二〇銭の割合により破産債権確定手続をとりながら、昭和三四年一一月一一日破産債権撤回届書(昭和三三年一二月五日付)を破産裁判所に提出している。
右のとおり参加人銀行の本件遅延損害金に対する措置は全く首尾一貫していないのであつて、本件遅延損害金についての特約の存在を疑わざるを得ないのである。
要するに、原判決は本件遅延損害金の特約について、その存在すら疑うべき事実があるにかかわらずこれを無視して本件手形貸付基本約定書に遅延損害金日歩二〇銭と記入してある一事をもつて本件特約の存在を認定したものであり、この点においても到底控訴人の納得し能わざるものである。
第四遅延損害金の特約の存在を認めるに足る証拠はない。
本件において被控訴人等の主張される遅延損害金「日歩二〇銭」なる特約の存否について疑があることは、既に詳説したところであるが、被控訴人等は右特約の存在について丙号証等を提出してその存在を立証しようとされる。しかしながら控訴人は被控訴人等提出の証拠をもつてしてもなお特約の存在は認められないと考えるので従前の主張に補足して次のとおり陳述する。
(一) 丙号証は、いずれも本件の外、参加人銀行と訴外錦観光の代表者であつた訴外中山錦二個人又は同人が代表取締役をしていた訴外中山木材との手形取引契約に関するものばかりであり、中山錦二個人に全く関係のないものとの取引に関するものではない。即ち、中山錦二及びその関係者以外のものとの取引について日歩二〇銭もの高利率の遅延損害金の特約をなし、これを実行した事例の存することについては何等の立証もない。
(二) 却つて参加人銀行に二七年間もの長期にわたり、かつ退職時同行大曾根支店次長であつた桜井喜一の当審における証言によると同銀行の遅延損害金の取扱はむしろ借入利息相当額が原則とされ遅滞が長期に亘る場合でも利息相当額に二厘位増額していたことが認められる。
(三) 一方訴外中山錦二は参加人銀行の大株主で、同行創立当初より密接な関係にあり、長期間に亘つて多額の融資を受けており、参加人銀行と所謂戦闘状態になる迄の間当事者間においては、支払が遅延した場合でも利息相当額の遅延損害金で決済されていたことが認められるのである。
(四) しかも本件遅延損害金を日歩二〇銭として訴外中山錦二ないしは同人の関係する訴外錦観光等に請求するに至つたのは、被控訴人等の当審における準備書面で明らかなとおり中山錦二と所謂戦闘状態に陥つたからに外ならず、昭和三一年二月一三日本件遅延損害金を日歩二〇銭として手形金訴訟等を提起された事実が認められるのである。
なお、右訴訟においては昭和三〇年一〇月二日以降遅延損害金を日歩二〇銭として請求しておられるが、甲第一五号証から明らかなように参加人銀行は同年一一月三〇日八〇〇万円、同年一二月二五日七五万円、同月二六日八〇万円もの多額の融資を訴外中山木材になしている事実がある。
以上の事実に加えて参加人銀行が本件遅延損害金につき当初日歩二〇銭として破産債権確定手続をとりながら、その後撒回している事実、被控訴人の決算上の処理等を総合勘案すれば本件基本契約締結にあたつて公共的性格を有する金融機関ともあろう参加人銀行が町の高利貸ともみまがうべき日歩二〇銭もの高金利の遅延損害金を徴収する意思があつたとは到底理解できず、又訴外中山錦二が右高金利の特約を認識して契約したとも認められない。
すなわち、本件基本契約に基づく別件手形訴訟判決(乙第四号証)のいうとおり遅延損害金について日歩二〇銭とする旨の合意があつたと認めるに足る証拠はないとの結論に達せざるを得ないのである。
被控訴人及被控訴補助参加人の陳述
第一
一、先ず第一に控訴人は「本件基本契約締結ノ当時、破産会社ハ未ダ設立サレテイナカツタ。ソノ未設立ノ会社ガ、何故ニ参加銀行ニ対シテ返金義務ヲ負ワネバナラナイカ、ソノ根拠ガ明ラカニサレナカツタ」と主張するが
(1) 本件基本契約締結当時、破産会社が未設立であつたことは、控訴人主張の通りであるが、実はこの未設立の内に、観光バスを発註し、その代金支払資金の融資を必要としたことについては、中山錦二の企業計画についての巧妙な策戦があつたのである。
周知の通り観光バス事業は運輸省当局の許可事業であり、新規にこれが許可を得ることは容易ではない実情に在るのであるが、普通観光バス事業を営むものは、先ず然るべき人士を揃え、所定の手続を経て監督官庁の許可を受け、然る後所定の営業所、車庫、を準備し、営業用バスを買入れ、傍ら従業員を配置して開業するのが常態であつて、営業許否未定の内に観光バスを買入れたり、営業用土地建物を購入するような無暴な行動を執る者がない。これは至極当然のことであつて、該営業の許可を得ることは非常にむづかしく、若し不許可となつた場合は、巨額の損害を蒙らなければならないから、そういう見込の立たない内に、危険な企業計画を実行に移す人はないのである。然るに中山錦二は全然これと逆な態度を執り先ず自己の主宰する同人の個人会社たる中山木材株式会社名義で参加銀行より数千万円の手形貸付を受け、該資金を以て観光バス営業用土地を買得し、営業所及バス用車庫を建築し、監督官庁に許可申請をしたが、当局は容易に許可しなかつた。その内発註した観光バス八輛も完成し、中部日野ヂーゼル株式会社にこれが代金を支払わなければならぬことになつたので、中山は名古屋陸運局に営業許可について矢の催促をしたり、不穏の言動をして、関係官を困らせた上「今迄何等営業の具体的準備もない出願者には皆許可しながら、錦観光のように許可さえあれば、いつでも営業を為し得るように準備してある者に許可しないのは不都合である」と主張して強引に許可を求め、遂にこの逆手が効を奏し、許可の目的を達成したのであるが、右観光バス代金支払資金が緊急必要に迫られ、而かも中山木材名義の貸付は限度があり、参加銀行はこれに融資することができず、錦観光バス購入資金としての貸付は、日本銀行当局の承諾が不可能と判り、中山錦二は絶対絶命の窮地に立つことになり、中部日野ヂーゼル株式会社も、円滑な代金回収に支障を生ずる破目となつた。
右の事情で若し該バス代金の支払資金の融資が不可能となると、中山錦二は予定の錦観光自動車株式会社の設立もできず、営業許可請求の根拠である営業開始の具体的準備ということも画餅に帰し、観光バス営業の計画は全部崩壊することになるので、錦観光自動車株式会社の発起人代表たる中山錦二、中部日野ヂーゼル株式会社取締役河村要作、の両名は参加銀行の藤見太郎常務に懇請して、右観光バス八台の支払資金三四〇〇万円を中部日野ヂーゼル株式会社が借主、中山、河村両名は連帯保証をして参加銀行より手形貸付を為し、中部日野ヂーゼルはこれを中山に貸付け、中山はこの金で中部日野に対するバス代金を完済した上、尚五〇〇万円を第二回発註の観光バス代金の前渡金として中部日野に納金した。
しかし、中部日野としてはバス代金は回収し得たが、一面三四〇〇万円の返金義務を参加銀行に負担するので、この債務は観光バスの発註者をして返金させなければ何にもならない。そこで中部日野が参加銀行に対し債務額に相当する約束手形を振出交付する場合は、常に必ず同額の約束手形を中山錦二(錦観光設立迄は中山木材株式会社振出手形)より振出せしめ、参加銀行に差入れ、該融資金に対する利払及元金内入も為さしめ、事実上中部日野に損害を受けないようにしていたもので、錦観光自動車設立と同時に同会社が右基本契約上の債務を参加銀行に承認し、手形書替え継続の都度、同会社に於て該契約の定めるところに従い、利払もし、又元金の内入弁済もし(元金の内二〇万円宛四回支払い、残元金は三三二〇万円となつたものである)この利払及元金の内払並に残債務三三二〇万円を参加銀行に対し負担していることは、破産会社の帳簿にも記載され貸借対照表にも掲出されて、何人も疑う余地がない程明白になつているこの事実は恐らく控訴人と誰も争うことのできない事実であつて、換言すれば、本件融資についての基本契約が外面上は中部日野ヂーゼルが主債務者で、同会社は名実共参加銀行に対して主債務者として返金義務を法律的には負担しているが、実際上の資金需要者たる破産会社もその設立と同時に同一趣旨の債務を負い、而かも中部日野との関係に於ては、破産会社が専ら事実上返金義務を履行するという関係に在つたもので、破産会社も当初の間は、よくその約旨を守り元金内入利払共何等故障なく履行されていた。
而して銀行融資金については、所定の利子及遅延損害金の約定をすることは銀行取引の常態で、万人の周知するところであり、一般経済界に慣行されていることも公知の事実であつて、特別の理由乃至事情の認められない限りは、反対の事実を認め難いのである。加之、破産会社が右基本契約に基き元金内入及び利払を反覆累行している以上、特に反証のない限り、遅廷損害金の約旨も承認していたものと解すべきで、現に中山錦二が該約旨を熟知し承認していたにも拘らず、参加銀行との法延戦に於て、一時これを争つたが、後本心に立戻り参加銀行主張の日歩二〇銭の割合による遅延損害金支払義務の存することを、破産会社の代表者として承認し、特にその趣旨の念証を参加銀行に差入れている事実を、控訴人は故らに目を閉じている(甲第六号証)。
(2) 以上の如く本件融資は、当初から錦観光自動車の代金支払資金に充用するために為されたものであつて、事実その通り充用されたものである。故に破産会社はこれによつて設立も出来、開業準備も未許可前に整備し、監督官庁がその許可に非常に難色を示していたにも拘らず、準備整備を理由として、結局強引に許可も取つたという経緯で、破産会社誕生の根源的融資に外ならない。従てこの融資についての本件基本契約は、破産会社の設立生誕と同時に、同会社も亦、中部日野と同様に該基本契約上の義務を負うことを、同会社の発起人代表たる中山が、当初より覚悟もし承諾もしていたからこそ、前掲三面的な融資が行われたもので、若し破産会社が設立生誕しても、同会社が参加銀行に対して右基本契約上の義務を承認し履行することを同会社の発起人代表たる中山錦二が承諾しないなら、初めより本件融資が行われなかつたものであることは、上述の事情によつて明白であるから、破産会社が設立と同時に右基本契約上の義務を承認し、爾来その利払並に元金の内入を累行して来たことは極めて当然且自然である。
それ故、これ等の事情を調査した結果破産会社の代表取締役職務代行者として公正な職務を執行すべき大内正夫弁護士は勿論、その就任の当初中山錦二の性格を懸念し且その職務上の責任上慎重な態度を執り、且破産手続上一旦届出債権が異議なく確定した以上確定判決と同様最早これを変改し得ない効力を生ずるという性格よりして、一応第一審判決の認容した日歩二銭五厘の限度に於て是認した同会社の破産管財人たる亡亀井正男弁護士も、同事件の第二審に於て結局該基本契約所定の日歩二〇銭を認諾し、中部日野も亦同様認諾して、ここに本件遅延損害金が日歩二〇銭であることが確定したのである。然而破産債権確定訴訟手続に於て確定した破産債権は、その確定時に創設的に成立するというものではなく破産宣告前より既存の債権を確定せしめるものであるから、本件遅延損害金(破産債権)は成立の当初より存在することが確定したもので、該破産債権の確定は、破産手続の統一上総ての破産債権者利害関係人に効力を生じ、財団債権者と雖もその例外となるものはないし、仮に一歩を譲つて財団債権者には直接効力が及ばないものと仮定しても、前記の事情、理由、経過によつて確定した破産債権を濫りに否定してよい道理はない。殊に本件は徴税当局が確定破産債権を、一方的に減縮変更し、これに基づいて計算した結果、破産会社が破産宣告の申立を受けた年度の決算に於て、一、三六九万七千円の利益となつたとして、利益金を計上し課税するという通常思考し難い結果を招来したもので、その違法不当は言を俟たない。若し此控訴庁の確定破産債権の否認これに基づく計算と本件更正が適法正当であるとしたら、破産会社には何等破産原因がないことになり破産裁判所の破産決定は違法不当であつたことに帰する。何となれば、破産宣告申立年度に一、三六九万七千円も利益を挙げている会社に破産宣告を為す謂れがないからである。
二、控訴庁の挙示する本件遅延損害金否認の根拠について。
(1) 本件基本約定書には破産会社が主債務者となつて居らず、外形上中部日野が主債務者となつているとの主張について。
これは本件融資の特殊性を表裏内外より熟視し考察したら、破産会社が該契約書に主債務者として表示されていないのは当然であることが誰でも容易に理解し得ることで、該契約書に主債務者として署名捺印がないから、破産会社に責任がないとすることは、本件融資に関する当初からの一切の特殊事情を全部否定しなければ、斯る結論ができないことになる。
(2) 参加銀行の帳簿には中部日野との取引として記帳整理されているとの主張について。
帳簿の整理は事務処理上便宜の問題に過ぎない。破産会社は設立の当初から中部日野と併行して、常に必ず同額の約束手形を参加銀行に振出交付していた事実、及び当初より本件融資金についての利払並びに元金内入を参加人に履行していた事実は破産会社の帳簿に整然明白に記帳されて居り、この事は控訴庁の独特且正確な破産会社の帳簿調査によつて十二分に熟知していることである。
(3) 参加銀行は右基本契約に基き中部日野に対して手形金請求訴訟を起しているとの主張について。
控訴庁の言わんとするところは、中部日野に提訴していることは、破産会社が基本契約の債務者でないことを自認しているという趣旨かと推測されるが、控訴庁の指摘する右手形金請求訴訟(昭和三一年(ワ)第二〇三号)は、破産会社及中部日野共に債務者として共同訴訟を提起したもので、中部日野のみに訴求したものではない。不幸にして第一審に於ては、破産会社のみにはその請求が認められたが、中部日野に対する請求は棄却され(破産会社に対しても、遅延損害金は年六分の限度で認められた)たので、参加銀行はこれを事実誤認として二五万九五〇円の訴訟印紙を貼用して控訴し、第二審に於ては、破産会社も中部日野も結局参加銀行の主張の正当なことを認めて、昭和三三年二月一五日、共に参加銀行の請求を認諾し、その旨の認諾調書が成立している(名古屋高等裁判所第一部、昭和三二年(ネ)第四二〇号。本件丙第一号証の八)この事実によつても、破産会社も中部日野も参加銀行に対し本件融資上の債務が併存することが確定して居り、控訴庁の主張が誤つていることは明白である。
(4) 中部日野は、本件融資によつて中山木材に売渡したバス車輛には総て抵当権を設定しているとの主張について。
(イ) 破産会社が中部日野に対して支払する八輛分のバス代金と第二回目に発註した七輛分の代金の一部前渡金とは、本件融資(三四〇〇万円)にて賄われたものであることは、既述の通りであるが、該融資当時参加銀行は厚意的に出来得る限り破産会社の設立生誕を援助し、その営業の本件たるバス代金も中部日野に回収し得るよう、配慮したことは前叙の如くで、中部日野も当時該融資についての基本約定書に主債務者たることを承認して署名捺印しても聊かも不安とするところはなく、現に破産会社設立後に於ては予期した通り、破産会社が該契約上の義務を承認して利払及元金内入も行い、残元金については中部日野と共に参加銀行に対してその都度手形の書替継続を累行していたので、何等心配するところはなかつた。
(ロ) 然るに中山錦二は参加銀行よりの融資金を以て参加銀行の株式を買集めこの株式を参加銀行に預けて、これを事実上の見返り担保として又融資を受け同銀行の株式を買漁る方法を繰返し、またたく間に参加銀行の大株主の一人に成り上り、少数株主権を振廻して参加銀行に無理難題を吹掛け、昭和三〇年一〇月一日当時一億二千万円以上の債務の支払を故意に停止し、参加銀行の条理を尽した説得にも耳を借さず、理由なき株主総会無効の再度提訴をしたり、重役全員解任の臨時株主総会の招集を請求したりして、その他数種の悪策を行い参加銀行の名誉信用を傷つけ、底止するところがないので、参加銀行は重役従業員及株主総会等一致団結して銀行百年の大計の為め中山錦二関係の融資金の整理回収に着手し、昭和三一年二月一三日破産会社に対し(中部日野も共同被告とし)手形金請求訴訟を提起したところ、中山錦二は破産会社の主要財産たる観光バスに対し中部日野に抵当権を設定し、参加銀行の債権回収を無効とするよう画策し出したので、参加銀行は同会社に破産宣告の申立を為し、右手形金請求訴訟が一審に於て勝訴となり、次で同会社は支払資力なく支払を停止したものと認められて昭和三二年八月三一日破産宣告を受けたものである。
以上の如く破産会社が中部日野に抵当権設定登記をしたのは、参加銀行の債権詐害を直接の目的として為されたもので、本件融資金によつて中部日野から購入した観光バスの外、未だ陸運局より運行を許可されていない観光バス新品五輛も買入れていたので、中部日野は中山錦二の右の意図あるに乗じて抵当権設定登記を為さしめバス売却代金の完全回収を企図したもので、該抵当権の設定の事実を以て、破産会社が参加銀行に対して手形金支払義務のない証拠と為し得ないことは勿論である。
(5) 最後の論拠の一は「中部日野は、中山錦二が参加銀行より本件融資を受けられないことになると、必然観光バス代金の回収が困難となり損失を蒙る立場に立つから、本件手形貸付(自ら借主となつても)は中部日野に経済的にプラスとなる」との主張である。
参加銀行の行つた本件融資によつて、中部日野は結局一応錦観光営業用バス代金の回収が出来たのだから、此点のみに焦点を合せて観察すると、勿論中部日野にプラスとなつたことは所論の通りである。しかし中部日野は一面この三、四〇〇万円の返金義務を負担したのであるから、若此融資金の真の需要者たる破産会社が、真実参加銀行に此の元利を返金して呉れなければ、真の意味に於てバス代金を回収し得たことにはならず、プラス、マイナス、ゼロということになる。此場合に中部日野は売却した観光バスを代金不払として現物を引取り、幾分の損害を覚悟して他の観光バス会社に註文外れのバスとして売却し得る手段も執り得るから、大損害とならずに処置し得る途があるが、錦観光としてはその営業の本体(観光バス会社の唯一の収入源は観光バスである)が当初から獲得し得ず、獲得し得ないことによつて営業開始準備完了を口実として監督官庁の営業許可を強引は強請することも不可能となり、錦観光の会社設立も出来ないことになり、これが企画は全部画餠に帰し、中部日野に対しても損害を賠償しなければならないという極めて不利、最悪の事態となる。従て本件融資を受け得るか否かについては中部日野とは比較にならない重大利害関係がある。
第二
一、破産者錦観光自動車株式会社は昭和三〇年七月一五日までは日歩二銭六厘の割合、昭和三〇年七月一六日から同年九月二六日まで計七三日間、元本三三四〇万円につき利息日歩二銭五厘の割合で計金六〇万九、五五〇円を株式会社大垣共立銀行名古屋支店へ支払いずみである。
二、また同年九月二六日から同年一〇月一日まで(終期)の計六日間は元本三三二〇万円について日歩二銭五厘の割合で計四万九、八〇〇円を株式会社大垣共立銀行へ支払いずみである。
三、右元本金額が違うのは手形の書替による。
四、昭和三〇、一〇、二(取引解約後破産債権届出による損害金請求の起算日)以降は甲第一〇号証の一の手形取引基本約定書の通り日歩二〇銭の割合による損害金の支払請求を破産者錦観光自動車株式会社は右銀行より受けている。
第三
一、独り参加銀行のみに限らず、一般銀行取引の実際に於ては、その業務の性質上、常に融資の当初、融資金額、利子、違約遅延損害金、人的又は動的保証等の基本約定をすることを常態とし、殆んど例外なく慣行せられ、その違約遅延損害金の利率は、その融資当時に於ける金融情勢上日本銀行の認めた最高利率を約定し、その限度内に於てその遅滞の具体的事情一切を勘案して妥結せしめていることは、控訴人の職責上十二分に熟知していることであつて、銀行取引継続中に於ける右損害金の具体的支払事例の利率を以て、逆にこれを約定利率と為し得ないこと亦、控訴人の日常調査累行による実験則上充分知得している事実である。
二、又銀行業務は高利貸とは異るから、その取引先と平常取引継続中に於ては、約定利率の最高限度の遅延(違約)損害金を徴収することは殆んどなく、多くは約定利子相当額の損害金を徴収し妥結することを常例とし、本件に於てもその例外取扱をしていないのである。即ち、乙二五、乙二六の各証は、昭和二九年度の法人税確定申告、同添付決算、同年度の担当国税調査官の支払利息調査関係の書証であつて、破産会社が参加銀行と本件融資関係の生じた当初年度の平和、平常取引中の場合であるから、約定利率が日歩二〇銭であつても、当時に於ける手形貸付金利日歩二銭六厘と同率の遅延損害金で妥結せしめていたとしても敢てこれを異とするに足らない。
三、破産会社の中山錦二代表取締役は、本件三四〇〇万円の参加銀行よりの融資金が、破産会社の生誕的資金であつたこと、金利、損害金についての基本的契約がしてあることを熟知して居り、これが為め破産会社設立(昭和二九年五月一日)と同時に、同会社の帳簿にも借入金として記帳され、利払、内金支払も同会社がこれを実際上履行していたにも拘らず、度々手形の書替継続を為し乍ら、昭和三〇年一〇月一日の支払期日に於て、手形金の支払は勿論、書替継続もせず、正規の利払又はこれに準ずる遅延損害金の支払にも応じないのみならず、中山木材株式会社、株式会社錦、等の同人関係融資合計一億一千数百万円の債務全部は支払を停止し、参加銀行の再三の説得、参加代理人の一七回の往復説諭の外、同年一二月下旬更に数百万円の別途融資も行い、極力円満解決を図り、争訟回避に努力したが、右中山は却て一層増長し、参加代理人の警告を無視して、理由なき株主総会決議無効訴訟(再訴)重役解任の臨時株主総会招集請求等法廷戦を開始して底止するところがないため、参加銀行も遂に、同人関係の取引一切を清算して禍根を断つの外なしとし、斯く戦時状態に立到つた以上は、権利の存する限りは、聊かも顧慮する必要なく、違約損害金の如きも約定通りこれが支払請求を為すこととなつたもので、その責は右中山に在り。彼は本件破産宣告直後一時その非行を後悔して、参加銀行に対し「念証」を差入れ、融資残元金三、三二〇万円及び手形不渡以降日歩二〇銭の割合による違約損害金債務のあることを自認し、前管財人亀井正男も亦大内正夫代行者同様、一切の事情を精査した上、昭和三三年二月一五日、名古屋高等裁判所第一部法廷に於て、係争の日歩二〇銭の違約損害金債権を認諾したことは、縷述の通りである。(認諾調書第二項、丙第一号証の八)
四、控訴人は上記事実を全部無視して、従来元本債権さえ卒直に認めようとせず、未設立の会社が参加銀行に責を負うべき謂れがないように論難していたが、乙第二六号証によつて、控訴人は破産会社設立年度当時の破産会社の本件係争融資一切を調査し知了していたことが明らかになつた。即ち、同証によれば、国税調査官は当時の調査に於て、
(1) 参加銀行大曾根支店(後名古屋支店)が破産会社に、昭和二九年五月一日三四〇〇万円を融資していること。その事実上の借入当初は同年三月三一日であること。
(2) 同年六月一〇日利払及び同率による損害金を支払い切替えていること。
(3) 同年八月一〇日更に利払をして切替えたこと。
(4) 同年一〇月二八日、更に切替(但二〇万円内払)して三三八〇万円切替継続となつたこと。
以上の各事実は乙第二六号証の末葉の「支払利息明細表」と題する部分に詳記してあり、控訴人は当時より係争融資表裏事情を熟知していることが、これによつて明らかである。
第四 控訴人は本件日歩二〇銭についての確定破産債権を参加銀行が一旦破産裁判所に届出をしながら一応撤回している事実について、独自の想像を以て論難しているが、苟も営利会社が莫大の訴訟費用を投じ控訴迄して、漸く確定破産債権として確保した債権を理由なく一応にもせよ撒回する謂れがない。その理由は税務当局が実情を無視して事実上回収の見込のない該二〇銭の割合により算定した未収利息金(当時四六四一万三六〇〇円)を参加銀行の利益勘定としてこれに課税を強行しようとしたからで、若し破産債権として届出を維持した場合参加銀行は莫大な損害を蒙るか、又は破産債権の回収見込額を基準として課税すべきか、名義額により課税すべきかにつき税務当局と法廷戦に出づべきかの岐路に立つたが、同銀行は巨額の損害を受けることも回避しなければならないし、税務当局との一戦も避けたいため、一応撤回の措置に出でたものである。
控訴人は債権の存在した事実とこれが権利の行使を中止した事実とを混同して、種々論難しているのは当らざるも甚だしいのである。
証拠として被控訴代理人は甲第一〇号証の一、二、同第一一、一二、一三号証、同第一四号の一、二、同第一五号証を提出し当審証人桜井喜一の証言を援用し乙第二五、二六号証の成立を認め乙第二六号証を利益に援用し被控訴補助参加人は丙第一号証の一乃至一一、同第二号証の一乃至六、同第三、四号証、同第五号証の一乃至六、同第六、七号証、同第八、九号証の各一、二を提出し当審証人桜井喜一の証言を援用し乙第二五、二六号証の成立を九め乙第二六号証を利益に援用し、控訴代理人は乙第二五、二六号証を提出し甲号各証及丙第一号証の一乃至四、八乃至一一、同第二号証の四、五、六、同第五号証の四、五、六、同第六、七号証、同第八、九号証の各一、二の成立を認め、同第一号証の五、六、七、同第二号証の三、同第三、四号証、同第五号証の一、二の成立は不知、同第二号証の一、二、同第五号証の三は官署作成部分のみ成立を認めその余は不知と述べた。
理由
当裁判所の審理によるも被控訴人の本件請求は正当であつて其の理由は左記に附加するほか原判決理由の説明と同じであるからこれを引用する。
控訴代理人は本件日歩二〇銭の遅延損害金の約定がなされている手形取引基本契約上の債務引受(成立に争なき甲第一〇号証ノ一、乙第一九号証によれば右基本契約は現行利息制限法施行前の昭和二九年三月三一日になされているから日歩二〇銭の利率による遅延損害金の約定の効力には妨はない)について破産会社と補助参加銀行との間に右遅延損害金約定による債務関係が存在することは甚だ疑わしく結局乙第四号証のいうとおり此の点に関しては証拠缺乏であると種々の点を挙げて主張するのであるが原審挙示の証拠、成立に争のない丙第五号証の五、六、同第六、七号証、同第八、九号証の各一、二及成立に争なき甲第一二号証約束手形の支払期日は昭和三〇、一〇、一であることからみて前記引用の事実の認定をなし得べく成立に争のない乙第二五、二六号証当審証人桜井喜一の証言も右認定をくつがえすに至らない。
仍て本件控訴を棄却すべく民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 県宏 裁判官 福田健次 裁判官 可知鴻平)